年々、医療機器の構造は複雑になり、継手や支持具などのプラスチック部品一つとっても、開発品にあった形状が必要です。
まずは試作品からの発注になるかと思いますが、せっかく引いた設計図も成形品だと実現不可能…といわれることもあるよう。
今回Mediプラメディアでは、医療用機器メーカーで初めて開発プロジェクトを任された若手の皆さまのために、医療機器用のプラスチック部品を64年間取り扱ってきた製造会社さんにスムーズに試作依頼をするコツを聞いてきました。

今回取材に応じてくれたのは、創業以来64年間、医療機器の部材を供給してきた若林精機工業の3代目社長・若林氏と若林氏とともにプラスチック加工製造の現場から30年のキャリアを積み上げてこられた取締役の大島氏。
プラスチック加工の製造現場が初めての取材者に対して、初歩的だろうと思われる質問にも、質問の意図を丁寧に汲み取って答えてくださいました。
若林氏
まずは生産する数量を把握しておいていただくことですね。
ロット数によって、最終的にどの加工方法を選択するか(切削加工でいくか成形加工でいくか)判断が変わってきますが、弊社の場合だと、100~20000個が生産可能数量です。
また素材によっても変わりますね。スーパーエンプラだと、ガスを抜きながら1ショットずつ生産します。汎用プラスチックよりも時間がかかるので、10万とか20万のロットは現実的に難しいです。1,000~10,000個くらいだと対応しやすいですね。
そういった物理的な条件があるので、先に数量がわかると見通しがつきやすいというところはあります。
若林氏
試作のご相談は設計図があれば大丈夫です。2Dと3Dがあればベストですが、手書きで「こんな感じのもの」くらいからスタートすることもできますよ。
大島氏
場合によっては、弊社で図面に起こすこともありますね。
その設計図ですが、弊社は手書きからでも図面を起こせる珍しい会社かもしれないです。アイディアベースからでも全く問題ありません。
若林氏
CADで3Dの図面を用意してもらえると、5軸加工機というものが使えるんです。CADデータをCAMデータに変換して使うと、5面同時に加工することができるわけです。
若林氏
弊社では5軸加工機はもちろんのこと、各種マシニング機もそろえています。それから、ロボットを使って無人加工の工程があるのも特徴です。

大島氏
成形加工の場合は、形状によって抜けるものと抜けないものがあります。
「抜ける」というのは簡単に言えば「作れる」ということなんですけども、つまり樹脂が冷えて固まったものを金型から抜き取ることができるかどうかということです。
成形加工で作る場合には、金型で抜けるかどうか、どうやるかを打ち合わせする必要があるんです。設計図をもとにして、ご担当者様と詳しく打ち合わせができれば、と思います。
若林氏
不可能な形状もあるにはあるんですが、そうは言っても抜けない形のものが絶対に不可能とは限りません。弊社の技術というのは、「抜けないモノをどうやって抜けるようにしていくのか」というところにあります。
いろんな手法がありますから、ご相談させてもらいながら進めていければと。
若林氏
試作品を1個から対応できるのは、弊社が切削加工と成形加工の両方に対応しているから、ということがまずあります。最終的に量産するにしても、まずは試作から始めることになります。
試作品は、基本的には切削加工で作ります。成形加工は金型を作るのに時間とコストがかかって、量産に入らないとコストに見合わないんですね。そこで、試作の設計ができた時点ですぐに加工に入れる切削加工で作っていく、と。
試作してみてそれでOKなら、弊社ではそのまま成形加工もできます。だから、切削加工で試作品を1個作るところから始めて、金型の設計と製造、そして量産に入っていくという流れが可能です。
大島氏
そうですね、弊社では単純に切削で試作品1個でも可能ですし、量産を見据えた上でまずは試作、そして量産へ…というオーダーでも受けています。もちろん大量量産するのではなくて、小ロットでの量産も得意ですよ。
多少無理な注文でもうちはやってみる会社なんで(笑)、ロットや内容に関わらずまずは相談していただけたらありがたいですね。
若林氏
最初に試作をする段階では、切削加工で作るので形状にあまり制限がありません。プラスチックの塊を削っていくので、肉の厚みが均等でなくても製造可能です。
しかし成型品はプラスチックの厚みが均等でないと抜けません。そこで、量産のために成形加工にシフトするには、成形加工できるように形状を変更しなくてはならないんです。
大島氏
たとえば、肉の厚い部分には表面に凹みができやすいケースがあります。
私たちはこれをヒケと呼んでますが、それが起きないように「肉盗み」などの工夫をして、表面が均一になるようにします。
ただ、そうしても「この部分はどうしても細くしないといけない」なんてことも出てきます。そういう場合は、成形条件で調整したり、金型を工夫したりすることも可能です。あまり極端な変化は、成形加工では難しいこともありますが。
若林氏
そうですね、おかげさまでスーパーエンプラの問い合わせもたくさんいただいています。
大島氏
スーパーエンプラの成形というのは、ふつうの樹脂の倍は温度を上げなければなりません。
樹脂がやわらかく加工できる状態になる温度を「可塑化温度」と言いますが、エンプラやスーパーエンプラは通常の樹脂よりもそれがはるかに高いんです。
例えば、よく使われる汎用プラスチックのABSなんかは、100~110℃で液体になります。だから製品として耐熱温度は70~100℃くらい。スーパーエンプラは耐熱温度がずっと高いので、溶ける温度も高いんです。
若林氏
扱う樹脂の温度が高いので、スーパーエンプラは既製品の成形機では製作できません。高温で使えるように改造をします。
大島氏
だいたい日に100~500ショットくらいですね。
もっとたくさん作れればいいんですが、可塑化した樹脂も金型も非常に高温になるので、ガスが発生します。そのため都度ガス処理のメンテナンスをする必要があります。
若林氏だから連続で成形していく、ということができないんです。ガス処理しながらの生産で、日に100~500ショットというところですね。
大島氏
2~3ヶ月はかかりますね。汎用プラスチックと比べるとどうしても時間がかかってしまいます。
若林氏部品の形状とか、どれくらいの寸法精度を求められるかにもよりますけどね。
若林氏汎用金型と比較されるご担当者さまからは「なんでそんなに時間がかかるの?」と言われることもあります。
簡単に言えば、スーパーエンプラは温度がはるかに高いので、それに比例して手間も倍かかると考えてもらえればいいと思います。
大島氏
耐薬品性に優れているので、酸性やアルカリ性のものに触れる部分の部品でも劣化・腐食などの心配がないことが大きな強みですね。
あとは融点が汎用プラスチックよりもかなり高いので、高温化でも使うことができます。
大島氏
それから汎用プラスチックに比べると寸法の安定性が高いという特徴もあります。寸法精度の要求が高いときは、安定した寸法が出るスーパーエンプラが向いています。
若林氏
ちなみに弊社で取り扱っている樹脂の種類は、汎用からスーパーエンプラまで含めると18種類くらいになります。手に入るものであれば、新規の材料で生産することも可能です。指定の材料があれば都度ご相談してもらえれば。

大島氏
もちろんCNC旋盤、フライス、ボール盤、各種あります。
大島氏
今までに実現した制作物で言えば、POMなら0.05mmまで薄くしたことがあります。
若林氏
あとはABSで0.08mmかな。グレー塩ビでも0.08mまで薄くした実績があります。どこまで薄くできるかは形状や材質によりますが、どこまでやれるかチャレンジしたいですね。
若林氏
たとえばギア加工で言うと、ねじゲージに合わせて加工するんじゃなくて、ガタつき量が0.001~0.009mmになるくらいの精密加工の実績があります。
大島氏
ねじゲージというのは、製品をはめ込んで規格通りに作れているか検査するためのものです。ガタつき量が0.001~0.009mmということは、ねじを締めた後の遊びが0.001~0.009mmしかないという精密さです。
大島氏
プラスチック部品は、はめ込んだり留めたりするものが多いです。したがって嵌合性の高さは重要です。ガタつきがなく、ピタッとハマるかどうか、ということですね。
ほかにも金型から抜けるかどうか、みたいな問題もありますが、それは専門家である私たちのほうで工夫するところです。
あらかじめ気をつけていただきたいことを挙げるとすれば、成形加工で量産する場合は、切削加工と同じ形状では作れない可能性があることを考慮しておいてもらえると助かります。
スーパーエンプラが必要なケースでは、金型の製造にも時間がかかるからです。
若林氏
試作をオーダーしていただく段階で、「これは無茶かな…」なんて思うことがあるかと思います。でも、弊社のお客様は「困ったら若林さんに」と言ってくださる企業様もあります。
難しいこともチャレンジする姿勢を買ってくださってるのかな、と。
お客様が困っていることがあれば、それを解決することが弊社の仕事です。100%対応できるわけではないですが、チャレンジ精神に富んでいる会社だと自負をしています。
Mediプラメディア編集チームは、「今さら聞けない」初歩的なことを、いろいろと質問させていただきました。
若林氏、大島氏とも、わかりやすく丁寧に答えてくださったおかげで、何となくピンとこなかったことも霧が晴れるように理解できました。
プラスチックのことを専門的に勉強しないと相談しづらいのではないかと思っていましたが、手書きの図面でも相談できるような、親切な対応が心強いですね。
若林精機工業様は、インタビューでもお話ししただいたように「こんな感じで」という手書きの図面からでも試作を始められる会社です。プラスチックのこと、設計のことでわからないことがあっても丁寧に相談をしてくれます。
しかも試作品1個から対応してくださるので、規模や量産後のロット数に関わらず相談しやすいのが嬉しいところです。
高度な加工設備を備えており、精度の高い部品製造ができるのも若林精機工業の大きな強み。公差の要求水準が非常に高い医療機器用のプラスチック部品であっても、それに対応できるだけの精度、そして不良品を出さない体制があります。
断熱・遮熱工事によって加工精度を高く保ち、24時間稼働できる工場も完備。精度を高く、短納期で対応ができる優れた体制をもった会社です。
金型を使っての成形加工はもちろんのこと、材料を削って部品を製造する切削加工にも対応している若林精機工業様。成形した部品を、切削して追加工することもできます。あらゆる技術を駆使して、顧客のニーズに応えてくれるその技術力の高さは何よりも心強いと感じました。
| 所在地 | (本社工場)大阪府豊中市三国2-4-6 (神戸工場)兵庫県神戸市西区森友4-94-2 |
|---|---|
| 電話番号 | 06-6333-4801 |
| 公式HP | https://w-seiki.com/ |